美術科の学生4人で個展をやっているという。「見に来てください」と、招待を受けていたので、昼間の空き時間を利用して赴いた。とある古ぼけたビルの1.2階を借り受けて、厳かに作品が並んでいた。美術に関して、僕は全くの門外漢。加えて作者4人の女性達のお出迎えを受けて、僕はあがりっぱなし。冷静に・・・冷静にと、ハンケチで汗をぬぐいながら足を進めた。平日とあって、会場内は空いていた。

4人の女性のうち、一人はさる店でアルバイトをしていて、時々店で会っていたから知っていた。その女性からの招待だったわけだ。僕のつけたニックネームが「妖精」。最初会ったときは、前髪がまつげにかかるくらい伸びていて、髪のあいだから怪しく光る眼に「ぞーーーーっ」と背筋が凍った。目だけならさほど興味も持たなかったが、にんまりと笑ったその顔があまりに妖しく、美しく、かつ、カウンターにいるときは気がつかなかったが、並んで立った時、170センチはあろうかと思われる長身の美女だった。「今時、日本にこんな美しい女性がいたなんて・・・・」と、僕はまるで魔法にかかったみたいに、焼酎のグラスを重ねた。な、なんと、彼女も焼酎が大好きで、ぐいぐいと淡い唇にグラスを運んだ。さすが、南の楽園から来たつわものだ。

そんな彼女に僕の触手が動かないわけがない。「トッチャン坊や」を彷彿とさせる僕には無理だとは分かっていたが、「お嬢様。お食事でもどうですか?」と誘ったことがあった。結論は自ずと見えている。「私、いちおう彼氏がいますので。あまり気持ちよく思わないかもしれませんから」と、丁寧に断られた。さもありなん。了解・・・。涙で幕引きだ。

「妖精」のことばかり書いては店のママも気分が悪いだろうから「ママ」のことも書いておこう。ママにつけたニックネームは「フランダースのママ」。褐色なのか金髪なのか良くは分からないが、髪を染め、畑道にさいた彼岸花のようにふくらんだ髪をしている。黒がよく似合う牧歌的なママさんである。そこからイメージしてつけたニックネームが「フランダースのママ」である。最初の頃はフランダースという犬を連れたご婦人と茶化していたが、今は何と、何と、フランダースのママへ昇格だ。

いつぞや、高校時代の同級生数人が遊びに来たとき、その店でどんちゃん騒ぎ。僕はフランダースのママと踊り出す始末。友人の一人がその姿をデジカメで撮って、送ってくれたが、ママの豊満な後ろ姿だけが目立ち、到底、披露する気にはなれなかった。今はパソコンの秘密の扉の中で靜に眠っている。

個展の話がいつもの如く脱線。本題に戻ろう。妖精ちゃんは、「染色」を専攻している。染色かあーーー?。ということは何かを染める訳か?。無知な僕はそう言うことしか思いつかない。壁に掲げられた彼女の作品の前で僕の足は止まった、というより、「これ私の作品よ」と彼女が教えてくれた。和紙みたいなものに、淡いピンクで染められた得体の知れない動物が、「むしゃむしゃ」と何かを食べている。その染色が不気味さを感じさせる。これ、「夢を食うとか言う動物のバクなの」と彼女は言った。何を食べているのかと聞くと、いや、聞かなかったか?。彼女の方からしゃべった。「私の体や頭や髪の毛から出てくる汚れた血をバクが食べて浄化している姿なの」と彼女は解説した。題名を見ると「カルマ」と名付けられていた。

「カルマ」とは仏教的には「業」とか訳されている。サンスクリット語では、「行為」とか「宿命」とかいうようだ。また「カルマの法則」とは、過去になした行為がいずれ自分に返ってくるという「因果応報」の法則のことで、インド占星術の土台であるべーダ哲学の根底に流れている思想らしい。

身の毛がよだつとはこのことだ。「ぞーっつ」とした。やはり、「妖精」だぜ。なぜに彼女がそうことに興味を持っているのか?、僕の浅はかな頭では思いつかないが、多分、彼女はなにか人に言えない業を背負っているのかもしれない。それは聞かないことにしよう。

帰り際、僕は「あの作品が欲しいなあーーー」と言ったところ、「あれは駄目」と、即、拒絶された。当然と言えば当然だ。まだバクは彼女のカルマの全部を食べ尽くしていない。食べ尽くすまでは作品を離せないのだろう。
僕の心の中にやましい気持ちがわき上がった。「僕なら。バクに負けず、すぐ食べ尽くしてしまうのに・・・・・・」と。

いけない。いけない。今はただ彼女たちの個展が成功裡に終わることを陰ながら祈ることにしよう。

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