無事に小旅行から帰還した。旅行の内容はほぼ予想通りの展開。霧と雨に見舞われ、小型のバスは田舎の山道をのっそり、のっそりと上った。たどり着いたホテルは霧の中にたたずんでいた。玄関では女将と、いく名かの従業員に出迎えられた。さすがにシーズンオフだ。ほかの泊り客の姿が見えない。「おれたちの貸し切りかーー」と、嬉しくもあり、悲しくもあり。

こざっぱりしたロビーのソファーに陣取ると、ここの名物という飲み物が茶代わりに出された。「へえー、サービスがいいぜ」と、恐る恐る口元に運んだ。蜜湯の味がした。「お土産にどうぞ」という女将の計らいなのだろう?。

三名、三名、四名の割り振りで和室三部屋が用意された。当然、僕たち若い者が四名の部屋となった。温泉地とくれば、まずは風呂へ行く。地下と一階に大浴場があるとのこと。「まずは一階を試すか?」と、浴衣に着替え、迷路のような通路を進むと、やがて、「男湯」と書かれた大きな暖簾に出迎えられた。そく「ぶらりん」になり、浴槽へ向かった。大きなガラス張りの壁の外では、霧にむせった緑の木々が、ざわめいている。「いやあーーー天気が良ければ絶景だぜ」と仲間の一人がつぶやいた。同感だ。

長ひょろい大浴槽を真中に、左右に円形の小浴槽があった。温度差で三つの浴槽に分けているらしい。米のとぎ汁みたいな色をした真ん中の浴槽に身を沈めた。仲間以外に他の客はいない。貸し切りみたいだから当然か?。

こうなれば、僕の天下。すかさず犬かきを披露。たゆたんだ僕のボディーは手かきを早くすることによって、かろうじて浮いた。「若いころに比べればおれの体も随分と重くなったもんだ」と変に感心。

たっぷりと温泉を楽しんだ後は、さあーーー宴会だ。いかなるコンパニオン嬢と遭遇するか、はやる心を抑え、会場へと急いだ。会場の前の通路にうら若き女性が二名立っていて挨拶をした。派遣されたコンパニオンさんたちだった。組み合わせが面白い。一人は天地真理さんタイプのこんもり型。他の一人はツイギータイプのガリガリ型。「田で食う虫も好き好き」というから、これは経営者の配慮なのかもしれない。まあ、ハートが良ければどちらでも構わないが。

長老の挨拶に始り宴は進行した。仲居さんたちが、料理を次から次へと運んできた。決まり文句のように、「お客さんたちはどちらから?」と、質問を浴びせてきた。「僕たちも近県の田舎からですたい」と言うと、同じ穴のむじなと思ったのか、機嫌よく話がはずんだ。コンパニオン嬢たちは、さすがに兵。差し出される盃を、ぐいぐいと飲みほす。「こりゃーーー末恐ろしいぜ」と、僕の目玉も、大きくなったり小さくなったり。会話もそこそこネタが尽きると次はカラオケとダンスタイムだ。洗濯機の親分みたいな装置が畳の端に置かれていた。

すかさず選曲が始まり、みな、臆面もなく日頃の美声を披露。コンパニオンお嬢さんが傍に付き添う。歌っている最中に、ボディーに両手を回し、体をぐいぐいと押しつけてくる。「うんんん、これも客をもてなすテクニックか?」と、訝しく思うが、これは嬉しくないことなんだろうか?。いや、やはり嬉しい。「男はみなそうだぜ」と納得。

僕も加山雄三さんの「君といつまでも」を披露。「七海」と名乗るツイギーの女性が傍らに寄り添った。「ぼかあーー七海といる時が一番幸せなんだ」と、セリフを言いながら、彼女の顔を見ると、にんまりとほほ笑んでいた。
「このほほ笑みは、誰に対しても同じほほ笑みなんだろうなあ?ーーー」と思うと、ふと、ビジネス社会でのほほえみを連想し苦笑いだ。

二時間ばかりの宴会の後、二次会へ行くことになった。運悪く、外の世界は雨風の洗礼を受けていた。しかたあるまい。ホテルのラウンジを利用することに決まった。決まったは良いが、まかないの女性たちが誰もいないとのこと。それもそうだよなーーーー。客のいない店に、女性がたむろしていても仕方がないしなーーー。結局、高くついたが、幹事さんの計らいで、コンパニオンお嬢さん二人を延長でチャーターすることになった。仲間たちの青ざめた顔が、ふたたび赤みを取り戻した。

例によって、またもや飲んで歌えのどんちゃん騒ぎ。10時を回ったところで、いよいよお開きとなった。三々五々と皆、部屋へ戻った。寝る者あり、テレビを見る者あり。僕は「さあ、楽しみのタイムだ」と、フロントへマッサージを依頼。若き女性の揉み手を所望したが、毎度のとおり、山姥を思わせる、髪を振り乱した?60歳代の女性が登場。(失礼しました)。「まいったぜ」と思えど後の祭り。「ご自由に揉んでたまれ」と、僕は開き直りの呈で、体を横たえた。魔法の指ならぬ鉄の棒が、僕の体に食い込んだ。

時々、唸り声をあげると、「つ・よ・す・ぎ・ま・す・か?」と、魔女のような声が耳元でささやいた。僕もさるもの、男の子。「いいや、ちょうどいいですよ」と、さりげなく応答。内心は、「明日は、さぞかし体が凝っているだろうなーーー?」と、心配したが、まさにその通りとなった。快楽を求めんとする僕の野心がいつも、こういう結果をもたらす。「心頭滅却すれば火もまた涼し」というが、まだまだ迷いの権化のなかにありということか?。

てなわけで、翌朝は再び、早朝風呂としゃれこみ、凝った体をほぐした。八時に食堂へと赴いた。な、なんと、そこには、二組の夫婦らしき客が先陣を切っていた。「客がいたんだ?」と、妙な安心感にとられた。雨風にたたられ、予定が狂い、食材があまったのか、それはそれは豪華な朝食だった。通常ならバイキングなんだろうが、こう客が少なくてはそれもできないということで、ばかでかい盆にもられて配膳された。「朝食だけで30種類の食材があるぜ」と、変に感心し、粥をお変わりして食べてしまった。

土産を買おうと思ったが、適当なものがない。女将お勧めの蜜湯は、甘すぎて候補外。結局ここではは買わずじまい。女将一党に見送らて手を振りながら、霧の山道を下山だ。昨夜の疲れか、皆、「コックリ、コックリ」やっては目覚め、また、「コックリ、コックリ」だ。

平地へ出ると、いくらか天候が回復した。仲間の一人が、「こりゃあ、天気があがるばい」と言ったので、僕は「うんん・・・まだ予断を許しませぬぞ」と言い大笑いだ。案の定、小康状態の天気が雨へと変わった。しばらくすると、また仲間が、「上がる上がる」というので、僕はすかさず、「まだまだ予断を許しませぬぞ」と逆襲。案の定また雨が・・・・。結局、この繰り返しをたどり着くまでやっていた。土産は途中で買った。今はやりの、○○館とか言う、新鮮商品の直売所を物色。巨大なスイカが千円とあり、蔓ももぎたてのごとく青かったので、買いたかったが、なにも、土産に重いスイ
カを買うこともあるまいとあきらめた。仲間の一人は、袋に入った大量の「ジャガイモ」が三百円だったとのことで、バスへ持ち込んだ。女房がさぞかし喜ぶことだろう?。

事もなく出発地へ戻り、それぞれに、ストレスを解消した慰安旅行だった。
旅は、長期であれ、短期であれ良いものだ。ただ、永久の旅立ちは当分遠慮したい。

コメント

最新の日記 一覧

<<  2025年6月  >>
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
293012345

お気に入り日記の更新

テーマ別日記一覧

最新のコメント

この日記について

日記内を検索