天高く波静か。(1)
久しぶりと言っていいのか?、何十年ぶりと言ったがいいのか?、船に乗った。船室に続く危うげな通路を手摺りにつかまりながら、我が座席へと急いだ。僕こと、ジャイアンと、弟のごとき、のび太君との旅がスタートしたのだ。

船に乗るまでのいきさつを少し書いておこう。僕たちは地元の駅を集合場所とし、電車とタクシーで船着き場まで行くことにした。早朝6時。めいめいの出で立ちで二人が登場。のび太君は、ハンチングキャップみたいなものをかぶり
、あたかも、クリケットをやっているイギリスの紳士風。ジャイアンたる僕はと言えば、笑うセールスマンタイプの帽子をかぶり、ジーパンにジャンパー。ちぐはぐもいいところだ。「旅の恥はかきすて」。誰も文句を言う者はいるまい。僕たちは顔を見合わせてにんまりと笑った。互いに自分のスタイルの方が「勝っているーー」と思っているかのように・・・・・。

のび太君がハンチングキャップを脱ぎながらいみじくも言った。「最近僕の頭の毛が薄くなってねえーーー」と。確かに・・・・。髪らしきものはあるが、地肌があちこち透けて見える。僕もハットを、「はっ」としながら取り、「同じ穴のむじなさ」と、風前の灯火となった髪を掻き上げ慰めあった。

小一時間僕たちは電車に揺られた。会話はたわいないことばかり。二人ともこれから展開するであろう、「恋の予感」ではなく、「旅への不安」が頭をよぎっていたのだろう。時はお構いなく僕たちを目的地へと誘う。

電車を降り、タクシーで船着き場へと向かった。15分程度で到着した。港には大小の貨物船や観光船が停泊していた。平日をねらっての旅か?、結構、港内は混雑していた。僕たちはとりあえず乗船券を求め、いくばくかの金を両替することにした。円高で儲かったと、人はみな思っているようだったが、「果たしてそうなんだろうか?」と僕にはいぶかしく思えた。両替の後、乗船にはまだ時間があったので、朝食を取ることにした。

こじんまりとした、食堂があり、僕たちはそこへ陣取った。定番の朝食を注文。飯、味噌汁、納豆、のり、卵、漬け物で一式。450円とはこれは安い。空きっ腹だったので、おいしく平らげた。さあああ、いよいよ乗船だ。ここから冒頭の文章となる。

僕たちは船の二階席を指定していた。見事良い席にあたった。何が良いかといえば、一番前列の席で、僕たちの前には壁しかない。要するに、他人の席が前にない。僕たちは靴を脱いで、その壁に短いがやっと届く足を投げ出して、突っ張り棒とすることが出来る。これが結構、足の緊張緩和にやくだつんだよなあーーーー。見た目には悪いが・・。これから数時間の船旅が始まる。僕たちは朝が早かったので、海を十分、見ることもなく眠りに落ちたようだ。

天高く波は静か。鼻提灯一つふくらませ。最高の旅日和だ。




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