海から陸へ。(3)
船は揺れることもなく、定刻に岸壁に横付けされた。曲がりくねった通路の準備ができた。二階と一階から客がひしめきあいながら通路へ押し寄せた。僕たちも遅れをとるまいと列に食い込んだ。通路の横揺れで、一人のおばさんが床に倒れた。すかさず救助をと思ったが、既にたちあがり、「大丈夫、大丈夫」と言う。年配の人には、この横揺れは禁物だぜ。「おっと」僕も危ない。

やっと通路を抜けて、いよいよ入国だ。僕達は審査に臨んだ。パスポート、荷物、ゲートくぐりだ。順調に進んだかに見えたが、ゲートをくぐるとき、人はピンポンピンポンと音がする。どうもこれはオッケーらしい。僕の場合は何も音がしなかった。「おかしいなあーーー」と思って上を仰いだが、何の変化もなし。係員の女性が手招きして、「はい、両手を挙げて」という。素直に従うと、白魚のような手が、僕の両脇腹から足まで、さすった。くすぐったいぜ。何事もない。オッケーかと思ったら、「帽子を脱いで」と言われた。僕はすかさず、はげかかった頭を露出し、「にこっ」と笑うと、係員の女性も「にこっ」と笑い返してくれた。この「笑い返し」がどういう意味だったのか、定かには分からないが、自己流に解釈すると、「すてきですよ。何も問題ありません」ということか?。どうやら、のび太君も僕と同じ行程をを踏んだようだ。

「やれやれ」と思いながら、僕たちは歩みを進めた。なんと、トンネルをくぐると、そこは雪国ならぬパラダイスの出口だった。初めて見る風景。よく目をこらすと、黒ずくめの制服を着た女性達が半円周上に取り囲んでいる。手には旅行社の名前の書かれた、とりどりの旗を持っていた。

なるほど。出迎えか?。僕はこういうシチュエーションが嫌いである。小っ恥ずかしいのである。僕のプライドがそうさせるのか?。ところで、僕にプライドってあったっけ?。あり、あり、大いにあり。まさにプライドの固まりだぜ。今はそんなことを言っている場合ではない。

取りも直さず、「郷に入っては郷に従え」だ。僕とのび太君は、とある旅行社の旗の前に集合した。24名が仲間らしい。ところが、どうしたわけか?、一人の仲間が間違った旗のもとへ走ったらしい。僕たちはベンチに座って待つことになった。ハプニングだぜ。

僕とのび太君は、しびれを切らし、ベンチの後ろに設けられていたミニ喫茶室でコーヒーを飲みながら待つことにした。コーヒーが入り、代金も支払い、一口飲んだところで、添乗員さんが「はい出発します」と言う。僕たちはコーヒーを飲み干そうと思ったが、かなりの熱さで、それを放棄。テクテクと添乗員さんの後ろに従った。オー・マイ・ゴッド。

旅はまだ始まったばかりだが、出足は必ずしも好調ではない。まああ、終わりよければ すべて良しだ。




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