搭乗口待合室はガランとしていた。僕たちは椅子に腰掛け、「今や遅し」と、場内アナウンスに耳を傾けていた。「搭乗の30分位前に案内するよ」とドラえもん君が言った。まだ1時間以上はある。何をすべくもなく、僕たちは売店から酒と缶ビールとつまみを購入。ぐいぐいやりだした。かく行動が田舎者たる所以なんだろうなあーーと、ふと思った。調子に乗り、皆、体の柔らかさを競うようになった。体の柔らかさは健康のバロメーターでもある。

な、な、なんと、両目の周りに真っ赤なわっかを作ったネズミ男君が、「みてみんしゃい。おいらは手の平まで、床につくぜ」と実演しはじめた。「なるほど。すごい。へー」と、皆、感心した面持ち。長老の夜泣き爺さんも、負けじと挑戦。そこそこ柔らかく、いい線をいっていた。歳の割には若いぜ。のび太くんとジャイアンも挑戦した。うんんんん、いかんともしがたい。二人とも指先は、足の甲に届かじ。そこへ、何を思ったか、ネズミ男君がジャイアンの背中を後ろから押した。「もう少しは伸びるだろう」というネズミ男君の配慮なんだろうが、ジャイアンは見事に床に転ぶ。皆、大笑いだ。この光景を近くの椅子に座っていた客が身を乗り出して観戦。薄ら笑いを浮かべながら、「馬鹿なやつらだ」とでも思っているかのようだ。周りをを気にしないところも田舎者の特徴だ。ドラえもん君と言えば、お腹が邪魔して、まず、手が床に届くこともない。ただ、突っ立ち腕組みをして、ニヤニヤしながら。この光景を眺めていた。

そうこうするうち、出発時刻の30分前になった。突如アナウンスが始まった。「どこどこ行きの○○便搭乗のお客様へご連絡します。今、機内の整備点検を行っておりますので、もうしばらくお待ちください」と。「ええーーっ、まだなの」と、僕たちは不満そうに顔を見合わせた。すかさず、メカに詳しい、ネズミ男君が説明し始めた。「機長が機内のスイッチをいれたところ、異常ランプが点灯したので、それで、点検しているんだろ」と。なるほど。さもありなん。皆、納得。

どれくらい待っただろう?。出発時間を過ぎて、30分以上経過していた。再びアナウンスがあった。「まだ、点検を行っていますので、もうしばらくお待ちください」と。「どうなってんの?」と、皆、いぶかし顔。午前11時をとっくに過ぎた頃、「○○便搭乗のお客様に申し上げます。フライトが中止になりました。今、代替便等の確認作業を行っています。しばらくお待ちください。なお、食事券を配布いたしますので、搭乗口までおいでください」と、アナウンスされた。

僕たちは、皆、「がくっ」と肩を落とした。「どうすべーーー、今回の旅は中止にして、国内のどこかへ目的地を変更しようや?」と、のび太君が言う。まあ、とりあえず、昼飯でも食って考えようと言うことになった。リーダー、ドラえもん君が食事券を入手。一人500円限度の券だった。ドラえもん君が代表で、売店から何かを購入してきた。帰ってくるやいなや、「500円以下の買い物じゃ、つり銭をくれないぜ。」という。僕たちは「せこいぜ」と笑ってしまった。

のび太くんが急遽、湯布院にある別荘を予約すべく、電話を入れた。知り合いの持ち物らしい。オッケーだった。ネズミ男君が「おいらは餞別までもらってきたのに、湯布院じゃ悲しいぜ」と言う。ジャイアンも同感だ。長老。夜泣き爺さんは、この成り行きを黙止。「なるようになるさ」という達観した態度はさすがだ。

だだごねのジャイアンの気持ちは収まらない。二人ずれの若い女性がいた。すかさずジャイアンは尋ねた。「君たちはどこへ行くの?」と。「韓国です」と言う。単純、能天気、単細胞のジャイアンは、リーダー、ドラえもん君に向かって言った。「ぼくたちもそこへ行こうや」と。ドラえもん君は笑いながら答えた。「日を改めるならともかく、今から変更は無理だよ。」って。きかん坊のジャイアンは、「それなら旅行社へ電話を入れてみる」と言って、即、テル。旅行社が言うには、「今、異常箇所のパーツ(部品)を取り寄せているようですから、ひょっとすると飛べるかもしれません。もうしばらく待ってみてください」と。すかさず、場内アナウンスが流れた。旅行社と同じ事を言う。うんんんん、参ったぜ。いつになったら飛べるかわからない。「待ち時間如何によっては、湯布院へいこうや」と、腹が決まりつつあった。その後、待てど暮らせど、メッセージが流れない。他の便の搭乗者たちが、どんどん、この場から消えていく。

思った事よ。「都市高速での事故。フライト便の欠航宣言。その後、かろうじパーツ(部品)待ち。今回の旅はどうも凶だな」なんて。昼を回った。「今回の旅はあきらめて、外に出ようや」と話がまとまったが、なんと、航空会社と旅行社の最終結論がでるまで、外に出られないとのこと。それもそうだろう。旅行社のメンツもあるし、今更払い戻しにも応じかねるだろう。僕たちは待つしかなかった。この時間のロスは、いったい誰が埋めてくれるのか?。こういうことはよくあることなのか?。僕たちはなすすべもなく、椅子に腰掛け、事態の成り行きを見守った。搭乗口に立てかけられた、アオザイを着た美しき女性の看板だけが我々の目を引いた。


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