我ら5人の部屋割りは、ドラえもん君と夜泣き爺さんの二人組と、のび太君、ネズミ男君、ジャイアンの三人組に別れた。ペンタゴンのような五角形の変わった形をしたエレベーターに乗り込んだ。3階で降りると、すぐそこに部屋があった。慣れない手つきでドアをオープン。シングルのベッドが三つ、「いらっしゃいませ」と、たたずんでいた。さすがに、ベッドとベッドの間隔が狭い。とりあえず、のび太君が真ん中、ネズミ男君が右端。ジャイアンは左端に陣取った。生ぬるい空気が頬に触れる。布団も妙に「じとーーーっ」としている。どうも快適とは思えない。まあ、仕方なかっぺ。何はさておき、先に眠りに就いた方が勝ちだ。怖いのはいびきだけ。

まずは腹ごしらえ。荷物を置き、Ⅰ階フロアーに降りた。我々と随行するらしいメンバーのおばん達が、たむろしていた。「さあーー行くべーーー」と、ネズミ男君が号令をかけ、一同は、不安な面持ちで後に従った。レストランはホテルから10数メートルの近い場所にあった。ドアを開けると、ずーっと奥まった所まで、テーブルが配置されていた。結構広い。客もかなり入っている。現地の人が多いようだ。僕たちはおばん二人を加えた7人掛けのテーブルに、残りの7~8名は、はす向かいの別のテーブルに陣取った。

さああ、注文だぜ。若い男の店員さんがメニュー表を持ってきた。何と書いてあるのか読めない。通訳の人を連れてくれば良かったと後悔だ。まずはビールで乾杯と言うことになった。いよいよ、ジャイアンの出番だ。心は高鳴る。
僕は、店員さんに、「セブンメンバーズ、ビア、オッケー」と切り出した。通じない。「do you understand beer? ok? 」。「オー、ビアね」と店員さんは言い、指を1本立てた。「オー ノー、セブンメンバーズ、セブンビア」と、と僕が言うと、またまた通じない。たまりかねたのび太君が「セブンメンバーズと言わなくていいんだよ」と言って、指を7本立てた。どうやら通じたらしく、小瓶サイズのビールが7本とグラスが運ばれてきた。ジャイアンの面子は丸つぶれ・・・・、悲しいぜ。

なかなか旨いビールだ。その後、数本追加注文した。おばんたちも、今宵こそはと「ぐいぐい」やっている。「さて、料理を頼もうや」とドラえもん君が言う。ごもっとも。しかりだ。すっかり自信をなくしたジャイアンは、むっつり、だんまり。もっぱら、のび太君とネズミ男君が、絵柄の入ったメニューを指さし、「これ、これね。これ3つ、これ4つね」と日本語で。通じない。ドラえもん君は腕組みしながら天井を仰いでいる。夜泣き爺さんは不安そうに事の成り行きを観察している。

そこでまた、だんまり、むっつりだったジャイアンが横やりを入れた。「ディス、スリ-、ディス、フォー 、オッケー?」。店員さんは指の数をみて、何を思ったか、変なことを言い始めた。要するに、量がすくないと言っているのだろう。たまりかねた僕たちは、「オール、セブン。オッケー?」と、指を混ぜて言ったところ、首を縦に振り、どうやら納得したらしく、引き上げていった。いやはや、料理の注文にこれほど神経を使うとは「初めての経験。もうこりごり」ってやつだ。

程なくして、料理が運ばれてきた。よく見ると、小皿に春巻きみたいなものが三個ずつ入っている。それと何かミートボールのようなものガ皿に盛られていた。「これじゃあ、あばかんでーーー。腹の足しにもならない」と、ジャイアンはすぐ近くに陣取っていた、おばん達のテーブルを眺めた。うまそうな焼きめしが大皿に盛ってあった。「これだあーーーーーーっ」と、ジャイアンは大皿を指さし、店員さんに告げた。相手は了解して、「にっこり」とほほえんだが、「面倒をかける客だぜ」と思ったに違いない。

焼きめしらしきものがくる頃には、すっかりビールを平らげていた。何を思ったか、リーダー、ドラえもん君は席を立ち、ぶらっと、店内を散策に行ったようだ。帰ってくるなり、「おい、おい、あちらではワインを飲んでるぜ」と言う。「そうなの、じゃあああーー俺たちもそうすっか」と話がまとまった。とりあえず、ワイン1本を注文すると、赤のアオザイをまとった美しい女性がワイングラスとボトルを運んできた。白魚のような細い手で、一人一人に注いで回った。僕たちは涼しそうに目を細めて、その手を見守った。改めてワインで乾杯だ。お腹は「今やおそし」と、焼きめしの登場を待っている。

アオザイを着た女性は、その後、テーブル横の柱に身をもたげ、こちらの様子をうかがっている。おそらくワインの追加注文を待っているのだろう。気の多いジャイアンは視線を彼女の目に注いだ。火花が「ばちっ」と交錯し、彼女は「にこっ」とほほえむ。ジャイアンは「ぽーーーつ」と顔を赤らめる。まだまだおいらも純情だぜ。結局、ワインを追加注文し、彼女は、のび太君とのツーショットのカメラに収まった。もちろん写し手は、僕こと、ジャイアンである。その後、何度も彼女と視線を交わし、ほほえみのオンパレードだ。「まさか、彼女はこの僕、ジャイアンに気があるのでは?」と早合点する始末。単細胞の思い込みは困ったものだぜ。結論は、「さらなる追加注文を彼女は期待していた」と言うべきだろう。

僕たちはワインでほろ酔い気分。「さああ、会計だ」ということになり、ハウ・マッチ・マニー?、カリキュレート? お足は?、レシート?、いくら?なんぼ?」と、知っている限りの言葉を並べた。これだけ並べりゃあー、ピンとくるだろう。店員さんは首を縦に振り、なにやら紙切れを持ってきた。見てびっくりとはこのことだ。500万ドン。えええっと、0を二つとって、0.5を掛ける。日本円で2万5千円だ。「わおーーーーーつ、ぼられているぜ」と、のび太君いわく。すかさず、ジャイアンは両手で×を組み、500万ドンの計算書の0を一つ指で押さえ、50万ドンを提示した。要するに日本円で2千5百円だ。恐らく、妥当な線だろう。店員さんは改めて計算書を持ち帰り、50万ドンに訂正してきた。僕らは、おばん二人分をおごりと言うことで、一人あたり10万ドン(500円)を払った。

ドンの円換算方法を知っていて助かった。知らねば、偉いことになっていたわけだ。やはり、旅立つときには行き先の情報をいくばくかは頭に入れておくべきと改めて痛感。事なきを得、無事にホテルへ戻った。道路では相変わらずミニバイクが激しく往来していた。やはりここは異国なのだ。


コメント

最新の日記 一覧

<<  2025年6月  >>
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
293012345

お気に入り日記の更新

テーマ別日記一覧

最新のコメント

この日記について

日記内を検索