何事も無かったかのごとく、朝が明けた。今日はまさに帰省への旅。早々にバイキングの朝食を済ませ、荷物をまとめて玄関口へ出た。出発までには少々時間がある。僕たちはホテルの玄関口で最後の記念撮影だ。恐らくもう二度とここへ来ることもないだろう。そう思うと、幾ばくかの寂しさを覚えた。

客の送迎をしているおばさんにカメラのシャッターを切ってもらった。「はい、チーズ」。そのかけ声と共に、僕たちは引きつった顔をほころばせた。
周囲を見回すと、もう店が開いている。僕たちは土産らしい土産を買っていなかったので、ちと、物色することにした。のび太君がなにやら見つけたらしい。従業員達と家族への土産と言うことだ。「10個ばかり買うから、負けて欲しい」と、すかさず値切り交渉。値切りは彼の得意の分野だ。泣きそうな優しい声で「お願い・・・」と言われると、店のおばさんも「うんん、仕方ないわ。いいわよ」と言うことになる。見事、交渉成立。

以前、のび太君と旅をしたとき、「ジャイアンは買い物が下手だ」と言われた。値札通りで買おうとするからだ。以後、僕、ジャイアンも彼を見習って、「お願い、負けて」と、おねだりするようになった、以外とこれが成功するんだよなあーー。とは言いつつも、店主はそこを見込んで値札をつけている。はなから損するわけがないだろう。そういうことを知りつつも、値切るのは楽しいものだ。

人が買うと、僕も何か欲しくなる。店内に目を向けると、阿寒湖名物の「まりも」がボトルケースの中で、神秘的な緑色を呈してたたずんでいた。僕は「これだあーーー」と思った。ピンポン球くらいのマリモに目が止まった。店主に説明を求めると、「これは養殖じゃなくて天然物ですよ」という。どうもうさんくさいと思ったが、ボトルの形と、マリモの大きさに惹かれ、購入を決定。バックにも入りそうだ。もちろん値引き交渉は忘れていない。「3500円だったが、3000円にならないかなあーー」と言うと、「今朝一番のお客さんだからそれでいい」という。なるほど。そういう返しの言葉もあるわけだ。

大事に持って帰った「まりも」はピンポン球くらいのもの一つと思っていたが、いざ、家に帰って、よくのぞいてみると、赤ちゃんが三匹生まれていた。これには驚いた。儲かったみたいな気分だ。なんでも、「まりも」は野球ボールくらいに成長するには150年位かかると店主が言う。その後、爆発して、「子まりも」がたくさん生まれるらしい。半信半疑で聞いていたが、僕には既に三匹の子まりもちゃんが誕生している。これは如何に?。

僕は早々に透明の容器と敷石を購入して、親分まりもと子まりもを別々の容容器で育てている。ちっとも大きくならないが、けがれなき緑色の美しさが毎朝、僕の目を楽しませてくれる。一週間に一度、水を取り替え、「早く大きくなああれ」と、声をかけている。まさに、あんぽんたんのジャイアンである。

話が脱線したが、ネズミ男君は独身の身。今回は、餞別金も、獲得できず、土産を買って帰るにも渡す相手無し。すこぶる優しい女性を求めて旅に出たかも知れないが、あいにく空振りだ。よくよく考えてみると、今時、三つ指ついて、「おかえりなさいませ」、「いっていらっしゃいませ」、「お風呂になさいますか?、お食事になさいますか?」、「お肩をおもみしましょうか?」などと言うような貞淑、可憐、質素な女性がいるんだろうか?。いる。いない。いる。やはり、いない。130回もお見合いをして、それらしき人もいたらしいが、こればかりは縁だ。ネズミ男君はもっぱら、ウインドウショッピングに終始した。

旅も最後の日となり脱線の連続だ。いよいよ飛行場向けて、バスが発車した。途中、昼飯を食い、どこかに寄るらしい。

地震による、幾多の人たちの安否が心配され、かつ、きな臭い世界情勢の中にあって、こんな能天気なことに身をやつしていていいんだろうか?と、今、自責の念に駆られている。だが、旅日記は完成させなくてはなるまい。


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