続、旅日記(17)
 



僕たちはマッサージさんが来るまで、のび太君のベッドを占拠し、ビールやら焼酎、酒を飲み始めた。今日一日の出来事を皆、語り出した。ただただ、脳裏に焼き付いているのは、悲惨な戦争の足跡だ。のび太君は、その一つ一つをカメラに収めている。「我々は、もっと歴史を知らねばならない」。口癖のように彼はそう言う。確かにそうだ。日本もそうであったように、この地も、見事に近代化が進み、いまや、高層ビルが建ち並ぶ都市に変貌した。戦争の反省の中から、人々が苦労して築き上げたこの繁栄。決して砂上の楼閣であってはならない。世界中の人々が、助け合いながら共存共栄をはかって行くこと。その事が、未来に残せる我々の遺産なのだ。とっちゃん坊や達は、皆、そう考えているようだ。

湿っぽくなった。皆、酒を「ぐっ」と飲み干したころ、一休さんが席を立ち、部屋へ戻った。マッサージさんがくる時間だ。僕等の部屋にはまだ来ない。四人で再び飲んでいたとき、ドアをノックする音が。来たか?。今宵はこのジャイアンが、山男の洗礼を受けようと、ドアを開けると、な・な・なんと、昨夜来た美少女が、ほほえみながら部屋へ入ってきた。「ええええつ」と僕は一瞬驚き、思わず体を引き寄せ、肩をポンポンと叩いて、親愛の情を示した。彼女は黙って従っていた。他の三人が、「おい、おい、なんて事するんだ。セクハラだぜ」と僕を戒めた。彼女はただ、にこにこしているだけ。

昨夜と寸部違わぬ行程で白魚の様な手が、僕のボディーを揉みほぐしていく。僕は「ほんわか、ほんわか、ほーい、ほーい」と、至福の境地。時折、仲間三人の視線がこちらを覗う。「だから、あんた達も頼めば良かったじゃん」と言いたかったが、それは止めた。よほど、昨夜の恐怖が脳裏にこびりついているようだ。揉んでいる間、彼女は一言もしゃべらない。聞こえるのは男三人の、恨み節みたいな声ばかり。「恨みますぜえーーーーーー」。おお、怖いーーーつ。

瞬く間に1時間が過ぎた。僕一人なら「もっと、もっと」と時間を延長したかったが、彼らの目もある。頭と顔を揉みほぐし、最後に背中を「ポン、ポン」と叩いて、「はい、終わりました」と彼女が言った。僕は所定の金子を彼女に払った。彼女は「にこっ」と笑って、金子を受け取った。僕は最後のお別れに再び彼女を抱擁した。他の三人が「やり過ぎだぜ。離れて、離れて。二回も抱擁してさ」と、不満げに言う。そっと体を離すと、彼女は丁寧に、お辞儀をして部屋から出て行った。僕も「ありがとう」と言って彼女を見送った。

僕の独断と偏見で一言書いておこう。紳士、のび太君には悪いが、昨夜の僕の振るまいが極めて紳士的であったので、すっかり彼女は僕を信頼したのだろう。恐らく、今日のマッサージは「あの人、ジャイアンに違いない」と、彼女は想像したに違いない。見事的中だ。彼女には何の屈託もなかった。ただ、嬉しかっただけに違いない。てなわけで、今宵を迎えた訳だ。僕の抱擁は親愛の証。彼女は十二分にそれを理解した。本来なら、体をよけるはずだが、彼女は微笑みながら、僕に従った。これこそまさに信頼の証と言わず何と言おうか?。

ねずみ男君が言った。「あんた、ただの客だから彼女は、いやいやながら従っただけだ」と。なるほど、そういう考えもあるが、僕の辞書には「信頼」という一言しかない。僕は相当に独りよがりで、自己顕示欲の強いナルシストなんだろうか?。ちと、大げさになってしまった。反省、反省。

彼女が帰った後、僕たちは再び飲み始めた。一休さんは戻ってこない。まああいいか。ねずみ男君は不機嫌そうに、はやばやとベッドインした。スネ夫君も酒を飲み挙げて、部屋へ戻った。紳士、のび太君が「ジャイアン、僕も寝るよ」と言って、ベッドに横になった。僕も寝ざるを得ない。心地よい疲れが、則、僕を眠りに誘った。ねずみ男君のいびきも、全く聞こえず。明日になり、「あんたのいびきで眠れなかった」と、ねずみ男君に言われることは必至か?





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