昨夜から今日にかけて、一歩も外へ出なかった。悪魔が近づいていたからだ。なんとかして迎え撃たねばならない。僕は早めの手当ということで、雨戸を全部閉めた。外が見えなくなり、まさに閉鎖空間に隔離されたようになった。電気なしでは部屋の中は真っ暗。

「さあーーきたれ」と、僕は興奮気味。だんだん強まっていく悪魔の音を耳にしながら、早めにベッドに横たわった。耳にラジオのイヤホンを当てた。時折、台風情報が流れるが、番組は通常のプログラムのようだ。お笑いのトークがあり、演歌が流れる。悪魔の子守歌のようだ。関心事は台風情報だから、好きなフォークソングが流れても、この時ばかりは、ハミングする気にはなれない。

夜中を過ぎた頃、やおら雨風の音が強くなった。「ゴーーーッ」という音が近づいては遠ざかる。木々が激しく揺れ、大粒の雨が雨戸をたたきつける。うんんんん、今回の悪魔はいままでの奴より手強いようだ。ラジオの報道はそのことばかり告げていた。

僕は一睡も出来なかった。朝の4時頃、二階の寝室から一階へ降りた。雨漏りの兆候がないか、部屋や廊下を見て回った。今のところ大丈夫のようだ。座敷のソファーでテレビをつけて寝ることにした。明け方頃、風雨がますます強くなった。どうやら九州のどこかに上陸するらしい。上陸したら、普通、悪魔はその勢いを弱めるが、今回の奴は違うようだ。あな、おそろしや。

こんな時、救世主 アーノルド・シュワルツエネーガー、シュワちゃんが「ダダン・ダン・ダダン」と言いながら、悪魔をやっつけてくれたらなあーーと、あり得ない願望に思いを馳せる僕、ジャイアンがいた。おっと、こんな非常事態に不謹慎な発言だ。平常心に戻ろう。

悪魔は九州の熊本あたりに上陸して、一路、北へ向かうコースをたどるようだ。相変わらず、雨風の勢いは衰えない。僕はソファーに横たわり、一睡もせずに、テレビにかじりついた。いつの間にか船をこいでいたようだ。

何時が流れただろうか?。朝の9時過ぎごろだったか。だんだん雨風が弱くなり、おそるおそる雨戸のない窓を開くいた。人一人っ子も見えない。周囲の田んぼは、何事もなかったかのように静かにたたずんでいた。ただ、庭にに目をやると、木々の葉っぱが丸く円陣を組んで、あちこちに固まっていた。僕は思わずほくそ笑んだ。「掃除がしやすいぜ」っと。

昼頃になると、雨も風もその仕事を忘れたかのように、静寂が周りを包んだ。「おやっつ、台風の目にはいったか?」、僕は一瞬、そう思った。その後は、九州から悪魔が退散したようだ。テレビではあちこちの被害状況を報道していた。我が所はなにもなかったので良かったが、被害を被られた方々には、心よりお見舞いを申し上げたい。

僕は安心したのか、ソファーに寝込んだようだ。起きたら午後4時。「えええつ、もうそんな時間。今日はなんにも仕事をしていないぜ。また、しばらくしたら、お寝んねの時間だ」。僕は即、雨戸を開いた。外へ出て、小屋にしまい込んでいた物品を、元の位置に戻した。あちこちに円陣を組んでいる木々や葉っぱ達を、くず籠に放り込んだ。天気の良い日に、火炎放射器で火あぶりの刑にしてやるぜーー。

おっと、過激な言葉はやめよう。とりもなおさず悪魔が去ったことに乾杯だ。さあーー、明日からまた、おまんまを食べるための労働にいそしもう。








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