のび太君を迎えに行った。彼は薄暗い電柱の横に幽霊のごとく立っていた。全身、真っ白の衣服。上半身は、高級そうな白シャツだ。街灯の光で輝いて見えた。僕、ジャイアンは、その時、ふと思った。「わおーーーーーーつ、デスノートのエルだぜえーーー」って。この間、見たドラマのヒーローの一人だ。のび太君とイメージが重なってしまった。かっこいいぜ。

そんなことを思っていると、いつの間にかタクシーは駅へ滑り込んでいた。到着時間、6時15分。電車の発車時間は6時45分。30分も時間があった。ちょっと早く着きすぎたか。「さあ、どうするべえーーー」と、ネズミ男君が言う。そこで、間髪を容れず、のび太君が「出発を記念して、一杯やろうぜ。コンビニが開いている。ビールを買おうぜ」と言った。全員、異議なし。缶ビールを調達した。

朝飯は、まだお預けだったので、空きっ腹で飲んだビールのうまかった事よ。皆、あっという間に缶を飲み干した。「朝ビール、胃袋満たし、目は真っ赤」とは、ジャイアンの一句。

ところで、「四人の記念写真を撮っておこうや」と、ネズミ男君が、首からぶら下げたカメラをいじりながら言う。腕を試したいのだろう。「そうだね」と、皆、同意した。四人をカメラに収めるには、誰か人にシャッターを押してもらわねばならない。ふと、周りを見渡すと、折りもよし、一人の中年の女性が手押し車を押しながら、我々の目の前を通りかかった。

ここは信用に厚いジャイアンの出番だ。「あのーーーつ、カメラのシャッターを押していただけますか?」と彼女を呼び止めた。振り返った彼女は、落ち着いた美しい中年の女性だった。「いいですよ」と、にこっと笑って、ネズミ男君からカメラを受け取り、シャッター位置を確認し、「ぱちり」と撮してくれた。ネズミ男君が「はい、いち、にー」と、音頭を取る。笑いを誘いたいのだろう。

のび太君が「お一人で旅行ですか?。今度の電車に乗りますか?」と尋ねると、そのようで、新幹線に乗り換えて東北まで行くらしい。東日本大震災で、放射能等で住めなくなった故郷を離れて、移住を受け入れてくれたこの地へ来ているという。今日は、一時的な里帰りだそうな。こんな遠く離れた地まで、震災の影響が、色濃く残っていることに、ただただ驚きと悲しみを覚えた。

ジャイアンが「途中まで電車が一緒ですね。よかったら一緒にカメラに映りませんか}と、言うと、彼女は快く応じてくれた。いやああああ、憂いを帯びた彼女の姿は、まさに999のメーテル、いやいや、女優の誰だったか、名前を忘れたが、その人を彷彿とさせる人だった。こっそり、ネズミ男に言ってやった。「どうや、あんたの嫁さんに?。こんなに優しい人は二人といないでえーーー」って。彼は顔を赤らめて、何も言わなかった。

電車にはジャイアン、ジャイアンの前にのび太君、ジャイアンの横に彼女、四人がけの椅子にしたが、さすがに彼女の目の前に座るのは気が引けたので、誰も座らなかった。彼女の前には荷物を置いた。ネズミ男君とスネオ君は、隣の椅子だ。

電車の中で、彼女の話を聞くと、彼女も大病を患い、手術をしたそうだ。今も定期的に病院通い。旦那は何年か前に死別したとのこと。人生とはまさに無情。ただただ、力強く生きてほしいと願うのみ。彼女との再会を期して、のび太君は名刺を彼女に渡した。僕、ジャイアンもちゃっかりしている。彼女のネームとテレホンナンバーをゲット。僕も名前を彼女の手帳に記した。

電車は滑るようにホームへ到着した。彼女も我々も乗り換えだ。再会を約して、ここで彼女と別れた、さあーーーーー、集合場所へ行こう。足取りもかるく、添乗員さんの待つところへ直行した。







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